短編 | ナノ


▼ 天京



バカップル天京。
傍観者霧野視点。



「ねぇねぇ剣城はさ俺のことどれくらい好き?どうせ照れて答えてくれないと思うけど俺は剣城のためならエレベスト登れるくらい好きだよ!でもちょっとツラそうだから剣城も一緒がいいなあ。二人で見る頂上からの景色は凄く綺麗なんだろうね横顔の剣城の顔が汗ダラダラでハァハァしてるの想像しただけでちょっと興奮してきたよあれ最初なんの話してたっけ?忘れちゃった。まぁいっか。山の上でもサッカーしたいなぁ!ねぇ剣城もそう思うでしょ?」
「酸欠になるぞ」
「そっかぁ!そこまで考えてなかったやーお前頭いいよなあ。やっぱ河川敷で皆でサッカーしてるのが一番だね暗くなってきたら剣城と一緒に俺の家帰って手洗って秋姉のクッキー食べて 一緒にお風呂はいっていちゃいちゃしたいねそれが一番だね!ねぇ剣城今度はいつ俺の家来てくれるの?ずっと待ってるんだよー?」
「今日行く」
「ほんと!?嬉しいー!!ほんとに久しぶりじゃない?剣城が俺の家に行くの!部屋綺麗にしてたっけなー?俺ほんとに剣城のこと好きすぎて一日中剣城かサッカーのことしか考えてないんだけどどうしよう毎日剣城の顔見れるだけで幸せだよ剣城って絶対好きとか言ってくれないけど表情で分かるからすごく可愛いよほんと家に置いておきたいよ一家に一台だよ剣城は」

部活のロッカールームで着替えていた霧野は後輩二人のやり取りをなんとなく聞いていてあっけに取られた。後輩二人が恋人同士という関係だから、という理由では無く(それは周知の事実で今更別段驚くことでもなかった)、天馬のマシンガントークぶりに愕然としたのである。
着替えながらとは思えないほど途切れることなく饒舌に話す天馬と、既に着替え終わりケータイをいじっている。きっと兄とのメールだろう。

「なぁ、なんであんな噛まないんだ?」

隣にいた神童に聞いてみる。俺が知るわけ無いだろう、という顔をしていてそうだよなあ。という顔で返す。長年一緒にいるからこそ出来る無言の会話だった。
それにしても一行で返してしまう剣城も剣城だが天馬もそんな剣城を見てて楽しいのだろうか。楽しいのだろうな。

「あ!勝手にいきなり友達連れてきたら困るって秋姉言ってたや!メールしとこ」

友達!?こいつ今友達って言ったのか!?
剣城を見れば別段気にする様子もない。メールを終えたようでケータイを回転させながら投げてキャッチしながら天馬を見ていた。俺の知ってる友達と違うぞ。どっからどう見てもバカップルだろこいつら。
神童も友達発言には驚いたようで目を見開いていた。

着替え終えてメールを打つ天馬は真剣そのもので先程の饒舌さが嘘かのように静かだ。短文を打つのにどれだけ時間がかかっているんだ。
その様子に剣城もイラついてきたのか片足を貧乏揺すりしていた。

「出来た!あ、あれ?消えちゃった打ち直しだー」
「ーーっお前そろそろスマホに慣れろよ!貸せ!」

我慢できなくなった剣城が天馬のケータイを無理矢理奪いメールを打った。天馬はそれを別段気にすることもなく剣城すごーい!と感動して画面を見ていて、なんともニコニコして幸せそうだった。

「ほらよ」
「わー!すごい、ありがと剣城!」

ケータイを受け取った天馬はまた先程のように剣城にベタベタくっついてマシンガントークを繰り広げるのかと思いきや、溜まったメールを読んでいるようでまた物静かになった。
剣城もやっと暑苦しいやつが一旦離れてせいせいしていると思った。が、その表情はどんどん曇っていく一方で、次の瞬間驚きの行動に出た。
天馬の背に、剣城が自らの背を預けたのだ。
凭れかかる剣城に天馬の顔は真っ赤になっていて、堪らず剣城!?と声を発していた。

「なんだよ」
「ど、どうしたの?」
「…お前がいつまでたっても構ってくんねーから」

聞こえないくらいぼそぼそと呟いた剣城の言葉に天馬は一瞬無表情になり悟りを開いた様子だった。そしてケータイをロッカーに放り投げ、剣城の方を向いて思い切り抱きついた。

「あああ剣城かわいい!大好き!」
「っるせえ!暑い!」

離れろとは言わないんだな。これの一体どこが友達というのだろう。ジト目で見つめる霧野と同じように呆れた顔でバカップルを見つめる神童は、言いづらそうに呟いた。

「練習、始めるぞー…」






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